紺碧の瞳がじっと私を見つめている。その内に蒼褪めた月光を抱いて、氷のように冷たい視線を投げつけている。憐憫、軽蔑、同情、そのようなありとあらゆる感情がまぜこぜになって飽和状態に至ったような視線ーー私にはそのように感じられた。 「もう」 張り詰めていた空気が一瞬ほど震える。まるで矢を放つ間際の弦のように。 何故彼が口篭っているのかも、その後に何と続くのかも、私には全て解っていた。だから、それ以上彼の目を見てはいられなかったのだ。 痛いほど拳を握り締めて、布団の中の暗闇をじっと見つめて、ただ恐怖に耐えているしか出来なかった。そう、認めたくはないけれど、私は確かに恐れていたのだ。彼の言葉を。この関係に終止符が打たれてしまうのを。 「お前とはしない」 どくん、と心臓が大きく波打つ。拍動が早くなって、全身が一気に熱気を帯びていく。真っ白になった頭の中を駆け巡っていたのは「やっぱり」と「どうして」という言葉だけ。 何か言わなければならない。彼を引き止めなければならない。そう思うのだけれど、口をついて出てきた言葉は、私の意図とは全く異なるものだった。 「そういう事か」 自分でも驚くくらい意地の悪い言い方をしていた。やめろ! やめろ! やめろ! と心の中で叫ぶのだけれど、私の口は決して言うことを聞こうとはしない。 「どういう意味だよ? そういう事って」 「どういう意味って、解ってるくせにいちいち訊くんじゃない。ふんっ……どうせ飽きたんだろう? 私の体じゃ満足できないか。なら勝手にしろ。娼婦でも何でも抱いてくればいい」 「ジェンド……」 「違うって言うのか? 愛し合ってもいないのに、こんな関係を続けるのはおかしいとでも?」 僅かながらの沈黙を差し挟んで、躊躇いがちな「ああ」という声が返ってきた。反射的に首筋がチリチリと熱くなって、体中が微かに震え始める。先ほどのものとは明らかに違う。私を支配していたのは恐怖などではなく、激情と呼んでいい程の怒りだったのだ。 「よくも抜け抜けとそんな事が言えたものだな。ええ? 今更奇麗事を言って何もなかった事にでもするつもりか? ふざけるのもいい加減にしろ!」 布団から顔を出して、彼の目をギリっと睨みつけてやる。恐れをなしたか、奴は私から視線を外すと、そのまま俯いてしまった。 「勝手な事言ってるって解ってるけど……もう我慢できないんだ」 「はっ、私が寂しがるとでも思っているのか? 寝てるからって、特別な相手にでもなったつもりでいたんじゃないだろうな? だとしたら自惚れるのもいい加減にしろ!」 「なんで」と口にした奴は、そこで言葉を飲み込んで、再び床に視線を落としてしまった。深い陰影の刻まれた顔は、苦悶に満ちた表情で埋め尽くされている。そしてよろめきながら体を翻すと、ドアに向かってのろのろと歩き始めた。 「どこに行く」 ドアの前で足を止めるカイ。首から背中にかけてなだらかなカーブを描いて、その姿は、まるで糸のたわんだ操り人形のようにすら見えた。 「……一人で考えたいんだ」 ぼそっと呟くように言って、ドアノブに手を伸ばしていく。その体が一瞬ほど動きを止めて、いやに感情のこもっていない声で、奴はこう続けたのだ。 「いつの間にかお前の事が好きになってた。でも、だから、もう終わりにする」 それから、私の応えも待たずに部屋から飛び出していってしまった。 「え……」 体中の筋肉が弛緩していく。再び頭の中が真っ白になって、指先がカタカタと震え始める。それはあっという間に全身へと広がっていって、もう自分ではどうしようもなくなっていた。 私は震える手をギュッと握り締めると、親指の付け根を口の中に押し込んで、尖った八重歯を皮膚に突き立てていた。痛みすら感じる余裕もなく、ただひたすらに噛み締めていた。
どれだけの時が経っただろうか。既に身体の震えは収まって、幾らかの冷静を取り戻した代わりに、止め処なく沸き起こってくる後悔がこの身を蝕んでいた。 何故あのような事を言ってしまったのだろう。愛してもらえるなど、決して思ってはいなかったのに。身体だけの関係を心地よく思っていた筈だったのに。どこから歯車が狂いだしたのだろう。 とにかく、謝らなければならない。これからどうなろうと、二人と別れる事になったとしても、それだけはしておかなければならなかった。
街中を探し回っても、結局彼を見つける事は出来なかった。 くそっ、と悪態をつきながら唇を噛み締める。最後に謝ることすら、私には許されてはいなかったということか。どうしようもないと悟った瞬間、身体中からするすると力が抜けていった。その場に立っている事すら億劫で、それでも、人目につく所にしゃがみ込むわけにもいかなくて。私は逃げるように路地裏へと入っていった。 ひんやりと冷たい空気と、混沌とした暗闇が身体に絡み付いてくる。屋根の切れ間からは月明かりが差し込んでいたが、地面に届くほど強い光ではなかった。 私は薄暗い通路を歩きながら、延々と響いていく自分の靴音に耳を澄ましていた。その時、視線の先に、ふと何者かの気配を感じたのだ。性別も何も解らない。だけれど、どうやら地面に座り込んでいるらしかった。 普段ならば警戒していた所だろう。しかし、今の私にとって、そのような必要などありはしなかったのだ。茫然自失としていた私に、どうしてそうする必要があっただろうか。 未だ身体がふわふわするのを感じながら、私は闇の奥へと足を進めていった。一歩、また一歩と踏みしめる度、うずくまった影が徐々に色彩を帯びていく。 無造作に切り下ろした髪の毛が風に揺らいで、一瞬ほど、懐かしい匂いが鼻腔をくすぐった。 「カイ……」 噛み締めるように彼の名を呼ぶ。しかし応えはない。 どうして、とは思わなかった。理由などどうでも良かったのだ。今ここに彼がいる。それだけで十分だった。 「隣、座るぞ」 「……好きにすればいいだろ」 このような口をきくのを、今までに聞いた事があっただろうか。投げやりで、苛立っているようで、どこか寂しげで。私は彼の隣に腰掛けると、色のくすんだ壁にじっと目を凝らしてみた。 「言っておきたい事があるんだ」 彼は応えようとしない。 ふと隣に視線を流すと、彼は酷く細めた目で地面を見つめていた。その顔は妙に大人びているようにも、怯えた子供のようにも見える。 「どうしてお前と寝てるんだって、さっき訊いたよな?」 「……ああ」 「信じてもらえないかもしれないけど、別に寝たかったわけじゃない。お前とするのは好きだし、気持ちも良いけど、でもそれが目的じゃなかった。私は……ただ抱き締めて欲しかった」 その時、隣から息を飲み込む音が聞こえてきた。きっと、私の真意を悟ったのだと思う。そうだとすれば、今度は彼が罪悪感を抱いていることだろう。真実を告げる事に些かの躊躇はあったが、それでも、その誤解だけは解いておかなければならなかった。でないと、ただの言い訳になってしまうから。 「いつの間にか怖くなってたんだ。独りぼっちになってしまう事が。だって、そうだろ。三人で旅をしているのも、たまたま私達が出会って、たまたま目的が一致したから一緒にいるだけで、それ以上の保証なんて何もないんだ。そう考えたらたまらなく怖くなって……自分でもどうしようもなくて、誰かに抱きしめて欲しくて……でも、『独りで生きていける』とか『お前らみたいに弱い生き物じゃない』だとか大口叩いた私にそんな事を頼むことは出来なくて、だからお前を利用したんだ。ああすれば、全部お前のせいにする事が出来るから。でも違うんだ。お前は悪くない。全部……解っててしたんだから」 「ジェンド……もういい。いいから」 彼の掌が私の手にそっと重ねられる。それ以上聞いていられなくなったか、それとも聞いていたくないのか、それは解らない。だけれど、やめるつもりはなかった。ここまで言っておいて、中途半端に片付けたくはなかったのだ。 私は一度ほど顔を横に振ると、乾いた唇を開いて、再び話を続けた。 「相手は誰だって良かったんだ。抱きしめてくれるなら、私を受け止めてくれるなら……誰でも良かった。私がそれを必要としていた時に、たまたまお前が側にいた。それだけだった。その筈だった。だけれど、私の中で何かが変わってしまった。今までは漠然と独りになる事が怖かったのに、いつの間にか、お前を失う事を恐れるようになってた。はじめは誰でもいいと思っていたのに、お前じゃないとダメになってた。だって、そうじゃなかったらどうしてお前を失うことを恐れたりする? でも、同じくらい怖いことがあったんだ。こんな得体の知れない感情に溺れてしまう自分が……物凄く怖かった。自分が自分でなくなるのではないかと思って。だから、お前が『愛してる』とか『恋人』とかいう言葉を口にする度、頭の中が真っ白になって、どう答えていいか解らなくなってしまったんだ。最初は色々考えようとしたけど、でも混乱するだけで、すぐに答えを先延ばしにするようになってた。そうして、ずるずると関係を続けていって、気がついたら取り返しのつかないところまで来てしまった」 そこまで言った所で、彼は重ねた手をギュッと握り締めてくれた。その意味を図りかねた私は、彼の顔を見る事も出来ず、ただ俯いているしかできなかったのだ。 「俺たち、バカみたいだな」 「ああ」 「互いに嘘付き合って、自分までも騙して。あんな始まり方さえしなければうまくいってたかもしれないのに」 その言葉を聞いて、思わず目頭が熱くなってしまった。うまくいっていたかもしれないーーそれがいやに重く圧し掛かって、私は涙を堪えるのに必死だったのだ。解っていたはずなのに、こうやって現実を突きつけられると、つくづく自分は弱い女なのだと思い知らされる。もう少し強いつもりだったのに。 「でもさ、これも言い訳なのかも」 「何が?」 「順番、確かに逆かもしれないけど、だからダメだって本当に言えるのかな」 「…………」 「そんな言い訳して、また逃げようとしてるんじゃないかって思って。そんな事したら……今度こそ大切なものを失ってしまうような気がして」 私は応えなかった。その代わりに重ねた手をすっと抜いて、彼の手をギュッと握り締めてやる。 「ジェンド、俺」 「何も言うな」 有無を言わせぬ口調で吐き捨てる。そのまま彼の方に身体を捻った私は、もう片方の手で頬に触れて、強引に唇を重ねた。一度ついた勢いはとどまる所を知らず、私は両手で彼の肩をグッと掴むと、その身体を乱暴に壁へと押さえつけていた。 宵闇の中に衣擦れの音と砂利を蹴る音が響き渡る。私達は何も言わず、ただ互いをじっと見詰め合っていた。彼の紺碧の瞳は透き通るように綺麗で、私はその瞳を、その瞳の中に映った自分を、食い入るように見つめていた。そして気づいたのだ。彼の目を見たのはこれが初めてだったと。彼という人間を面と向かって見つめたのは、これが初めてだったことに。私の瞳に映った彼は、その目に力強い光をたたえて、私をじっと見つめていた。そう、大切なのは順番なんかじゃない。二人揃って同じスタートラインに立つことが出来るかどうか。相手だけでなく自分を受け入れることが出来るかどうか。それが出来なければ、いくら愛を語ろうと、肌を重ねようと、何の意味もありはしないのだ。今ならば確信を持って言える。私達は同じ未来を見つめて、同じ場所に立っているということを。 私は彼の胸倉を掴むと、おもむろに唇を重ねた。今度は先ほどのように乱暴にはせずに。唇を微かに開いて、彼の唇を優しくはさんでやる。ゆっくりと、丁寧に、その行為を繰り返していく。 不意に、彼の下腹部に触れた手に違和感が走った。ズボンの上からもはっきりそれと解る、熱を帯びた彼自身が。私は掌をギュッと押し付けると、名残を惜しむように唇を離して、悪戯っぽい笑みを浮かべて見せた。 「……スケベ野郎」 バツが悪そうに笑う彼。しかし、肝心な部分はきまりが悪いどころか、ますます元気になっていく。 「こんな所にいたら襲われそうだな。妙な気を起こされる前に宿に帰るか」 その顔に一瞬ほど拗ねたような表情を浮かべて、それでも、彼は何も言いはしなかった。彼のことだ。きっと言えはしないのではないかと思っていた。だから、あまりに予想通りの反応をされて、私はこみ上げてくる笑いを抑えるのに必死だったのだ。 「ウソだ。ちゃんと責任くらいとってやるよ」 彼の顔にパッと笑みが浮かぶ。しかし、すぐさま口を一文字に結ぶと、私から視線を逸らしてみせた。 「いや……でも、悪いからさ」 何が悪いから、だ。ホントはしたくてたまんないくせに。こういう妙にいい子ぶる馬鹿な所は何となく可愛く思えて、そんな自分に気づく度に、心の中でため息を吐きたくなってしまう。まったく、私もとんでもない男に惚れてしまったものだ。 「じゃあやめるか?」 「ええと……いや、やめない」 「何だよ、それ」 「あ……あはは」 へらへらと笑う彼を横目に、彼の唇にもう一度だけ口付けをする。それから首筋に顔をうずめて、少しだけ出した舌を這わせてやった。あからさまにやってしまうと、いかにもそういう女のようだから。 「うぁ……」 彼の唇から艶やかな声が漏れる。少しだけ擦れた、くぐもったような声だ。全く、男がそんな声を出すんじゃないといつも言っているのに。心の中で再びため息をつきながら、片手間に服のボタンを外しにかかった。ラフな服を着ていたから、2〜3個外すだけですぐさま彼の肌が露になる。薄闇の中でもはっきりと解る、盛り上がった胸と、六つに割れた腹筋。いつもながら、均衡の取れた身体つきに思わず生唾を飲んでしまう。 私は首筋から顔を離すと、少しだけ身体をずらして、今度は彼の胸に唇をつけた。ぷっくりと膨らんだ小さな乳首を舌で転がしてみる。一瞬ほど彼の身体がビクンと震えて、太ももに触れた彼自身が一際大きくなった。 「気持ちいいか?」 「う……うん」 心の中でくすりと笑って、私は右手を彼の背中に回すと、左手を股間の方に下ろしていった。もちろん、その間も胸に吸い付いたままだ。 分厚いジーンズ越しに彼のものを擦ってみる。服の上からでもこんなに解るのだから、その下に隠れているものはどれだけ大きくなっているのだろう。そう考えると自然と胸が高鳴ってしまう。焦る自分を制しつつ、ジーンズのファスナーをあけた私は、その中に手を潜り込ませようとした。しかしうまくいかない。手が入るほどの隙間がないのだ。 「手、抜くぞ」 そう言って彼の背中から右手を抜いた。それから下半身の方までもぞもぞと降りていって、パンパンに膨れ上がったズボンのボタンを両手で外してやった。そのまま中途半端に弄り続けるのは面倒だから、ジーンズと下着を一気に脱がしにかかる。あっという間に情けない姿になった彼は、頬を微かに朱に染めて、立派な一物を聳えたたせていた。 「ほら、見ろよ」 彼の顔を見上げて言ってやる。躊躇いがちに私の顔を己の下半身に目をやる彼。それを確認した私は、左手で彼自身を優しく包んでやった。 「うあっ」 掌がカッと熱くなっていく。私はその手に少しだけ力を入れると、ゆっくりと上下に動かし始めた。その間もずっと彼の顔を見つめながら。互いの視線が絡み合う度、彼はバツが悪そうに私から顔を背けてしまう。そんな仕草がたまらなく可愛くて、私はますます弄ってやりたくなってしまう。少しずつストロークを早くしていって、彼が行きそうになったらすぐさま手を止めて。それを幾度となく繰り返していく。 「お、おいっ……ジェンド……」 「どうした?」 「そ、そんなにしたらいくって……」 くすっと笑いながら手を止めてやる。親指と人差し指の根元に彼のものを挟んで、もう片方の手で髪をかきあげた私は、未だ元気に反り立っているそれに口付けをした。 「だ……汚いからよせって」 「汚いものを私の中に入れるつもりか?」 「い、いや……そうだけど……」 「ふふっ、別に汚くなんてないから心配するな」 そう言って根元まで一気に飲み込んでやる。喉の奥がむせ返りそうになって、一瞬咳をしそうになるのを何とかふみとどまった。どうやら、思ったほど簡単ではないようだ。私はもう一度だけキスをすると、口の中に唾をためながら、彼のものを半分くらいまで口に含んでみた。今度は注意しているからむせたりはしなかったけれど、やはり辛いものは辛いか。とりあえず歯を立てないようにして、ゆっくりと出したり入れたりをしてみる。 女みたいな声を出してるってことは、とりあえず気持ちはいいのだろう。そんな風に考えながら早くしたりゆっくりしたりしていると、唐突に彼のものがプクッと膨らんで、喉の奥に粘ついた熱い液体が流れ込んできたのだ。びっくりした私は、一瞬歯を立てそうになるのを何とか堪えて、彼のものを吐き出すようにして口から出した。 「わっ、ゴメン、ジェンド!!」 「出すなら出すと言え! 全く……」 「悪い……」 「何て顔してる。それより」 「ん?」 「まだ出来るんだろうな?」 ギリッと睨みつけながら、すっかりと元気をなくしたそれを思い切り握り締めてやる。 「げ……は……ははっ…………多分」 「……多分、だと?」 「は、はいっ! 精一杯頑張らせてもらいます!」
場所が場所だという事で、膝までズボンを下ろした私は、両手をついて、尻を後ろに突き出すような体勢になっていた。如何にも屈辱的な格好には違いないが、それでも、そのような自分に何となく興奮してしまう。彼は私の後ろに立って、大きな手で腰をがっちりと掴むと、熱気を帯びた一物を入り口にあてがってきた。 「それじゃ、いくぞ」 私の返事も待たずに、一気に腰を沈めていく。身体の奥に違和感が走って、ドスンという衝撃が子宮にまで響いてくる。 「あぐっ……」 思わず声を漏らしてしまって、ハッとした私は、壁についていた右手を口に押し当てていた。しかし、左手だけで支えきれなかった身体がバランスを崩してしまう。反射的に右手を壁に戻す私。身体が前のめりになって、その体勢で入ってきた彼自身が根元まで飲み込まれてしまう。内臓が突き上げられるような圧迫感と、自分の内側を蹂躙される快感が下腹部を駆け巡って、頭の中が真っ白になってしまった私は人目も憚らずに声を上げてしまっていた。 「へえ……結構乗り気じゃん。そんなに気持ちいいんだ?」 「うっ、うるさいっ!! こんなのでイケるわ……んあっ!?」 それ以上喋り続けることは出来なかった。ただでさえギリギリだったというのに、その上身体がフワッと浮いて、アレが一番気持ちいい所を抉るように擦っていったのだ。 「や……やめっ……」 私の両手首を引っつかんだ彼が、まるで馬の手綱を引くように自分の方へ引っ張って、私は突っ立ったまま彼自身を受け入れていた。私の中で彼が動く度に足腰がたたなくなって、それでも、崩れ落ちようとするとますます奥に入ってきて。快感と疲労に食い尽くされていく身体は、既に私のものではなくなっていた。 「本当にやめていいのか? じゃあやめるぞ? いいんだな?」 「や……やだっ……あと少し……あと少しでいけるからッ!!」 「じゃあいけよ!」 不意に両手が開放されて、彼の手が腹に回されてくる。そのまま私の身体を壁に押し付けて、最後だといわんばかりに思い切り腰をぶつけてきた。 「ひっ!?」 「うぁっ……」 二人の情けない声が重なった瞬間、身体の中に生暖かい感触が広がっていった。 |
to be continued...
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