中に入っていく瞬間が好きだ。生暖かい体温に抱かれるその瞬間が。
ぬるっとした感覚と共に、俺自身が彼女の中へと沈んでいく。互いの身体がゆっくりと解け合っていく。少しずつ、それは意識すらも侵してゆく。その恍惚とした快感の中で、俺は恐怖すら感じてしまうのだ。
自分自身が、このまま融けて無くなってしまうのではないかという恐怖。
それから、胎内に抱かれている自分が追い出されてしまうのではないかという恐怖。
いつもならば感じる事はない。だけれど、この一瞬だけはその様な恐怖が頭を掠める。
彼女だから? 唾を呑むように、喉元まで突き上げてくる答えをゴクリと飲み込む。胸が微かに痛んだ。
俺に抱かれながら、彼女は一体何を考えているのだろう。胎内を異物で掻き回される感覚とは、一体どのようなものなのだろう。今にも爆発しそうな衝動を抑える時、いつもその様な事を考えている。熱くなった頭を冷まして、少しでも長く中にいたいと、無駄な抵抗を試みてみる。
何故だろう。
心の中で呟いてみた。
答えを出すつもりなど無かった。それが目的ではないのだから。
だけれど、今日は違った。
ふいに気になって仕方がなかったのだ。彼女は、ジェンドは何故俺に抱かれているのだろうと。俺と一つになる時、彼女は一体何を考えているのだろう。そもそも、俺が感じている『融けあうような感覚』を、彼女は感じているのだろうか。彼女にとって、俺は同質なものか、それとも異質なものなのだろうか。
口に出す事は出来なかった。どう訊けばよいかも解らないし、口に出して、気にしていと悟られるのもまっぴらごめんだった。
仰向けになった彼女の上に覆い被さる。その身体をがっしと抱きすくめて、腰の動きをいっそう速くしていく。
溶けるなんてもんじゃない。まるで灼け堕ちてしまいそうな感覚の中で、必死になって意識を繋ぎ止めていた。
フッと体中から力が抜けていく。不意に足が宙に浮いているような感覚に襲われて、その瞬間、俺は射精していた。
何の前触れもなかった。ただ単に、俺は彼女に精を放っていた。
正直、それがどれだけ崇高な行為であるかは解らない。だけれど、自分なりに答えを出さなければならないと思っていた。だから、その答えを求めるように、唇を重ねようとしていたのだ。
答えが出るかなんて解らない。だけれど、そうすれば何かが開けると思っていた。
「ジェンド……」
互いの吐息が重なり合う。
彼女の爪が背中に食い込み、その顔がさっと横を向く。唇が頬に触れた瞬間、俺は冷たい何かを背筋に感じて、そのまま動きを止めていた。
ーー拒絶された
きっとそうなのだと思う。身体を重ねているのに、一つになっているというのに、俺たちの間には決定的な隔たりがあったのだ。
無性に苛々していた。何も考えられない状態なのに、それだけははっきりと解っていた。
喉元に刃を突きつけられているようで、俺は奥歯をギリッと噛み締めながら、彼女の瞳に視線を向けた。
紅の瞳はまるで硝子玉のように見えた。生命の宿っていないガラス玉のように、ただ呆然と、暗闇の先に視線を凝らしていた。
こんな彼女を見たのは初めてだったと思う。
取り返しのつかない何かをしてしまった。何かを。それが何かはわからない。少なくとも、彼女の知っている俺は何もしていない。その筈だ。
少しずつ白んでいく頭の中で、その言葉を言い訳のように繰り返していた。 |
to be continued...
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