どうしようもなく目蓋が重い。体中の感覚は無くなりつつあるというのに、そこだけが、まるで鉛が乗っているかのように重たく感じる。
このまま眠っても良かった。だけれど、ある思いが不意にこみ上げてきたのだ。最期の瞬間をこの目に焼き付けておきたいと、そう思った。あいつらとやって来たこの地ーー旅の終着点をもう一度見ておきたかった。
ゆっくりと目蓋を開く。ベリッと嫌な音が聞こえた気がして、それから、眩い光が飛び込んできた。
・ ・
ここは本当に異世界なのか?
反射的に目を閉じた後、そのような疑念が沸き起こってきた。
全ての『嫌なもの』をごた混ぜにしたようなこの地に、そのような光などあろう筈がないと思ったのだ。それを確かめてみようと、もう一度目蓋を開いてみる。少しずつ、目を光に慣らせるように。
そこに広がっていたのは真っ白な空だった。ミルクを流し込んだような真っ白な世界ーー飲み込まれてしまいそうな錯覚すら覚えてしまう。
その中心には煌めく光が一つある。眩い光を放ち、均一なる世界を破る唯一のものだ。
力の抜けた手を伸ばしてみる。その光を掴もうと思った。もしかしたら何かが変わるのかもしれない。そんな筈がないのだけれど、そう思わずにはいられなかった。
だけれど、その手は光を遮るだけ。目の前に広がる白い世界に闇を落とすだけだった。 その時、指の隙間から確かに見たのだ。空から舞い降りる白い羽を。そして懐かしい者の声を聞いた。
生きろと、彼は言った。彼らしいぎこちない言い方で。それが本当に彼だったのかは分からない。だけれど、少しずつ薄れゆく意識の中で、俺は温かい何かに抱かれていた気がした。 |
n e c r o s i s
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あの夢を何度見た事だろう。
導かれるようにアバスのイビスに行き、異世界へと旅だった。イールズ・オーヴァとの対決。勝利。そして己の死。
全てが終わろうとしていた時に彼は現れたのだ。勇者ザードーーきっと彼なのだと思う。彼は俺に生きろと言い、次に目が覚めた時、俺はオッツ・キイムにいた。名もない海岸に打ち上げられていた。
不思議とこの夢にうなされた事はない。だけれど、それはある思いを投げ掛けてくる。自分は生かされているのだと、そのような思想に取り憑かれてしまう。
それは失われるはずだった命を取り留めた事に対する感謝の念であり、同時に、自分以外の何者かに生を支配されているという使役の意識でもある。
「生かされている……か」
ぼそりと呟いて、隣で眠っている彼女へと顔を向けた。
野宿が続いていたせいで疲れていたのだろう。ふかふかのベッドの上で、いかにも気持ちよさそうな顔をしている。全く、涎まで垂らしやがって……って、俺の枕じゃねぇか!!
それでも、こんな幸せそうな間の抜けた顔を見てると怒れないか。
気が付いたら口元が緩んでいた。アドビスでは決して無かった、とても自然な笑みを浮かべている。こんな頼りがいない、ぽけぽけしてて、いつもドジばっか
りしてる奴なのに、俺を笑わせるなんてただ者じゃないと思う。そして、そんな彼女の傍にいられる事が如何に幸せかーー目が覚めるたび、彼女の顔を見るた
び、他愛のない瞬間でさえ、その幸せを噛み締めているのだ。彼女の前では決して認めないけれど。 |
to be continued...
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