『私はお兄様と一緒にこの国を変えたいと思った。誰もが幸せに暮らせる国を作りたかった。いいえ、もしかしたらそれは耳障りの良い言い訳に過ぎなかったのかもしれない。国の元首として国民の幸せを考えるのは当然の事です。しかし、一個人としての私が追い求めていたのはそのようなものではなかった。私は……お兄様がお兄様でいられる国を作りたかった。もう一度私の側に戻ってきて欲しかった』

『あの時、嘘を吐いたんだ。俺がこの国を捨てたと、そう言った。だけど……あれは嘘なんだ。全てに耐えられなくなった俺はこの国から逃げ出した。尻尾を巻いてな。何もかもお前に押しつける事になると解っていたのに』

『お兄様、これだけは信じて欲しいのです。私はそれでお兄様を恨んだ事など一度も、一度もありません。いえ、むしろ良かったとさえ思っているのです。もしもこうなっていなければ、私は未だ庇護の元で温々と暮らしていたでしょうから。ほんの僅かでもお兄様の苦しみの一部を引き受ける事が出来た、それが嬉しいのです。全てをお兄様に押しつけずに済んだ事が。一つだけ恨んだ事があったとすれば、それはお兄様がこの国に残って、そして異世界になど行かなかったら……私は大切な家族を亡くさずに済んだという事』

『ミト……』

『この国は変革を求めている。きっとそうなのだと思います。今という時代の、そして国民達の求めているものは、お父様の時代のそれとは随分と変わってしまったのかもしれない。一つの形にとらわれる必要なんてない。確かにその通りです。だけれど、一度作り上げてしまったものは、それがいかにいびつな形になろうとも、なかなか手放すことは出来ない。今が好機だと思うのです。お兄様……私に力を貸しては頂けませんか? この国は未だかつてない苦難の時を迎えることになるでしょう。私一人の力では到底乗り越えることなど出来ない。しかし皆で力を合わせればもしくは……私の追い求めてきた理想を、一緒に叶えてはもらえませんか?』

RESURRECTION
リ ザ レ ク シ ョ ン

 随分と気だるい目覚めだった。体中に重石でも乗っているかのような感覚を抱きながら、ぼんやりとした思考が、少しずつ輪郭を成していく。普段の俺ならば、ここでパッと目を覚まして、寝ぼすけのアイツを起こしに行っているのだろう。だけれど、今日はそんな気になれなかった。少し時間が必要だ。頭の中を整理するのに、もう少し時間が必要だった。
 どうしてあの夢を見てしまったのだろう。どうして今になって。頭の中に次々と疑問符が浮かび上がってくる。未だに囚われているというのか、俺は。この国の呪縛に。心の奥底に刻まれた深い傷痕に。自分なりの区切りはつけた筈なのに、未だ夢一つ見ただけで狼狽えている自分がいる。
 どうしたものか。ため息を一つかみ殺して、ゆっくりと隣のベッドに顔を向けた。
 布団の中に潜り込んだイリアは、微動だにせずに、どうやらぐっすりと眠り込んでいるらしかった。放っておいたら昼まで寝てるぞ、きっと。そんな風に心の中で呟いて、何だか少しだけほっとしている自分がいる。カチコチに固まった心が解れていくような気がしていた。
 ただ、俺自身この気持ちの正体について、未だ判然としないものがあるのも確かだった。ザードにアイツの写真を見せられたあの時から、俺の中で御しがたい感情がモヤモヤと沸き起こって、今やこの胸は張り裂けんばかりにパンパンになっている。不思議と辛くはないのだけれど、自分の理解を超えたこの感情に、如何ともしがたい戸惑いを覚えている。最近では特に。アレが原因なのは間違いないだろうけど。
「イリア」
 無駄と解っていても、一度だけ彼女の名前を呼んでみた。もちろん応えはない。どうやら起こしに行かなければならないようだ。全く、朝から重労働させやがって。
 一つだけため息をついて、起きあがった俺は、ゆっくりと彼女の方へと歩いていった。
「おい、イリア、もう朝だぞ」
 まずは軽く身体を揺さぶりながら。未だ起ききってない俺の脳に響かない程度に呼びかけてみる。
「うにゃうにゃ……もうちょっとだけ…………」
「もうちょっとって、お前のちょっとはちょっとじゃないだろうが」
「何言ってるんだよ……ちょっとはちょっとだよ。ちょっとじゃないちょっとなんてないんだよ? だからもうちょっと……」
「ああーもう! ちょっとちょっとって連呼するんじゃねぇ!!」
 堪えかねた俺は、そう叫びながら、彼女の布団をぐいっと引っ張ってやった。
 思いの外簡単に剥がれる布団。これで流石のイリアも起きるだろうと思ったのも束の間。目の前に飛び込んできた衝撃的な光景に思わず息を呑んでしまう。
「お……お……お……お……お前……!?」
「もう……朝から何騒いでるんだよ、シオーー」
 気だるそうに目を開くイリア。ようやく状況を飲み込めたのか、俺から布団をひったくると、ボタンが外れて剥き出しになった肌を一気に覆い隠した。
「シオンのバカ!! 変態!! ドスケベ!!! 何見てるんだよ!!!!!!!!」
「ド……ドスケベってお前……」
「いいから早くあっちに行って!!!!!」

to be continued...

n o t e
最後まで読んで頂きありがとうございました。今回から連載を開始しましたこのリザレクションも、従来作品と同じく完全オリジナル設定にて進めていくつもりです。ストーリー自体はapotosisと接続しますが、必要な設定等は作中に散りばめていきますし、ネタバレしていないという点では、apotosis以前の作品を読んでいない方でも十分楽しめると思います。
 さて、最近アンケートの方でシオイリ裏希望の方が結構おられるという事で、それにお応えして、この小説は若干(?)裏要素を入れながら進めていこうと思っております。カイジェンほど激しくなる事はまずありませんが(笑)シオイリ界での裏度は「普通〜ちょい高め」位になると考えて頂ければ宜しいかと思います。……私が道を踏み外さないように祈ってて下さい(笑)故に、カイジェン小説のように一挙手一投足を描くというコトは無いと思いますが(多分)、裏が苦手だという方、今回程度の裏度でも引いてしまわれる方などは、この先を読まれない方が良いかもしれません。

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